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自分を模索する戦い HELI-X/HELI-X Ⅱ アンモナイト・シンドローム

第3弾に先んじて過去の2公演を視聴しました。素直に面白かったです。

説明が多めですが、冗長さを削ごうとする工夫が見えました。とりわけアクションシーンはバリエーション豊かで、多少本筋に置いていかれていようとも楽しめる出来です。

本作は完全オリジナルだそうです。が、原作付と言われても納得したであろう程にアニメ・漫画の文脈を感じました。

特殊能力を持った人間に対抗する警察組織があるとか、そこに新米の主人公が配属されるも所属するのは前科者ばかりだとかは舞台よりアニメ・漫画で頻出の設定かと思います。アンガーさんの能力発動条件とか、サッドネスと能力を掛け合わせるあたりとかもろその雰囲気。

他にも、OPをバックにスタッフクレジットが流れたり、組織の制服が実用性<映えのロングコートだったり…ボンズプロダクションIGNETFLIX資本で製作した2クールオリジナルアニメの舞台化だよと言われても信じます。

そんなように既視感の多い本作ですが、本作独自の色が垣間見える設定があります。それが「トランス」。性別を完全に入れ替えることができる施術が存在し、権利として公に認められている、という舞台設定は本作の肝といえます。

「これは失った自分を探す物語、さあ問いかけろーーお前は誰だ?」

OPではこんなフレーズが流れます。主人公アガタが関わる人物は、トランスを経て新たな自分を手に入れた者たちばかり。過去の自分に執着する者、過去の精算をしようとする者、新しい自分を受入れ生きようとする者…彼らは三者三様に葛藤します。

そして、トランスをしていないアガタにもその渦に飲まれていきます。

己を定義する他者

第二弾公演、アンモナイト・シンドローム終盤のアンガー&サッドネスとゼロ&アガタが置かれた状況は似ています。

サッドネスは女性と男性の間で、アガタはアガタとカイの間で揺れており、双方ともパーソナリティとアイデンティティの不一致が起こっていたといえます。アンガー&サッドネスに関して、元々アンガーはサッドネスを身体の性ではなく精神の性で見ていた節があり、サッドネスもそれを薄々理解していました。サッドネスの中の女性はアンガーに依存することで何とか保たれていたともいえます。

そんなアンガーの死は、女性として見てくれる存在の消滅であり、ひいては己の中の女性の消滅に繋がってしまうのです。

サッドネスは嘆きます。しかし、アンガーはここで「お前は女として生きろ」と言い渡します。
結局その言葉を切っ掛けに、サッドネスはアイデンティティを固めるに至りました。
アンガーという他者の働きかけによって、サッドネスは「お前は誰だ?」の問いに対し「女だ」というひとつの解を見つけ出すことができたのです。

しかし、ゼロのカイに対する思い入れと、そんなゼロを理解しカイ人格を割り切れないアガタの葛藤によって、ゼロはアガタの存在を断言することができませんでした。

彼はアガタなのか?カイなのか?と言うQに対する個人的Aは「アガタ」なのですが、来たる第三弾、ゼロはアガタに「お前はアガタだ」と伝えるのでしょうか?はたまたこの二人はアンガー&サッドネスとは異なる第二の解を見つけ出すのでしょうか。

サッドネスとアガタの件は、記憶喪失ものの類型といえそうです。
喪失前の人格と喪失後新たに形成された人格、両者には隔たりがあり、本人や周囲がそのギャップに戸惑い苦しみ、そして結論を出す。個人的に好みのジャンルです。(サッドネスは記憶というより身体ですが)

潤滑油クライ

好感の持てるキャラクターを選ぶなら場を和ませてくれるイモータルシデンシュンスイなのですが、動向が気になるのは未だ何故何のため動いているのか謎なクライです。
皆目的を持って動いている中、どの組織にも偏らず中立で単独、不意に現れたと思えば不意に去っていく。メタな見方をするとキャラクター同士を繋ぎストーリーを進める潤滑油のような存在です。クライがゼロとアガタを引き合わせなければ、ゼロは強化されたタイムで過去を知ることはできなかったでしょう。

殺人を繰り返していたアンガー&サッドネスを「お前たちは人の道から外れた」と非難したり、オシリスと相反する思想を持つことから、出会い頭で斬りかかって来る割りには平和主義者なのだと読み取れます。ではなぜブラックブラットに所属していたのでしょうか。過去の掘り下げが待たれます。

また以下は個人的な想像ですが、クライはオシリスのように第二の能力を持っているのではないでしょうか。

クライが頻繁に口にするワード「真実の扉」は、ゼロやアンガー、ワカクサ等のっぴきならない事情を持つ者に向けられていました。しかしゼロやアンガーはともかくワカクサは初対面の相手です。関わりのない人間の内なる事情を予め知ることは、難しいと思われます。

そこで、第二の能力 例えば、他人が心のうちに抱えている問題が扉として物理的に見えるとか ではないかというわけです。

加えて、イモータルオシリスクライあたりの特殊な事情を持つメンバーの中で、イモータルオシリスは能力と氏名に統一性があります。しかしクライの場合統一性はありません。それも第二の能力持ちと仮定すると、辻褄が合う気がします。

 

性別というデリケートなネタを扱いつつ、近未来超能力警察マフィアバディアクション等エンタメ心も忘れない秀作です。
アガタとゼロが丸く収まることを期待しつつも、オシリスにももう暫くヴィランとして暴れていただきたいところ。