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苦しみを伴う愛 HELI-X III レディ・スピランセス

近未来能力バトルSFと思いきやセカイ系でした。HELI-X IIIの感想です。

前作の引きから今作はオシリスVSその他の全面戦争かと予想していましたが全然違いました。

カイ/アガタどちらが主人格か問題やゼロとの和解があっさり片付き、残り何するんだろうと見ていたらあれよあれよとゼロとアガタvsその他に発展しているのですから驚きです。

そうなるに至る原因は今回登場する第三勢力なわけですが、当初彼らの存在には懐疑的でした。

超能力はさておき「未来」は流石に前作までの世界観を崩しかねないのではないか、折角オシリスが居るのだから新たな敵の投入は早いのではないか…話が進むにつれそんな考えが頭をよぎります。

鑑賞後もやはりそう思わなくはないのですが、オチを踏まえると今作にはああいった役どころも必要だったのだという納得が生まれて来ました。

二度目の選択

自分たち以外は皆命を狙う敵。愛する者と共に逃げるか死ぬか。
性別と人格は異なるものの、ゼロとアガタは再び在りし日と同様の立場に追い込まれました。

結果だけ見るとビターもしくはノーマルエンドといったところですが、ゼロの物語の〆としては、手を血で汚してきた因果報応も踏まえた最良の落とし所だったと感じます。重要なのは双方が納得して選択したという部分ではないでしょうか。

カイとゼロの最期といえば、ゼロを慕っており苦しんでいたというカイの想いは伝わらず、ゼロは目の前で殺される相手に何も出来ず、後味の悪いものでした。

しかし今回は事前に話し合うことが出来ただけでなく、誰にも介入されずふたりだけで結末を選び取ることができています。つまりはカイとゼロがなし得なかったことを、アガタとゼロとしてやり直すことができているのです。

過去に戻る能力を持ちカイという過去に囚われ続けたゼロは、最期にアガタへ未来を託します。
アガタは苦しそうでしたが、ゼロの表情はカイが殺された時のそれと比べれば穏やかなものに見えました。それこそが二度目の選択の意義なのではないでしょうか。

サッドネスとクライ

ゼロとアガタ以外に目を向けると、サッドネスとクライに思わぬ形で縁が出来ていました。

個人的には心苦しい展開なのですが、サッドネス本人の様子を鑑みるとこの現状は是とも捉えられるため複雑です。

思えば秘密を抱えながらサッドネスに優しく接するクライの立場は、物語当初のアンガーそのものです。アンガーはサッドネスの元から離れて行ってしまいました。つまり今後クライもサッドネスの元から……

サッドネスの「クライはどこにも行かないよね」はその逆の展開を示唆する反語だという解釈なのですが、ふたりがこのまま落ち着いて欲しくない私情が滲んでいることは否めません。

ただクライが人対人の渦中に放り込まれたことは嬉しいです。これまで誰とも近づき過ぎずあくまで大義のため動いていましたが、流石に今回は傍観者ではいられないはずです。まだまだ謎が多いのでこの期に乗じた掘り下げに期待。

「芝付の 御宇良崎なる 根都古草 逢ひ見ずあらば 吾恋ひめやも」

あなたと出会わなければ、私は恋で苦しむことはなかったはずなのに…という詩は、アンガーを失ったサッドネスにも、アガタと世界の二者択一を迫られたゼロにも重なります。

ラストシーン付近、過去と引き換えに苦しみから解放されてしまったサッドネスがスピランセスを抱えているというのはなんとも皮肉です。

シデンとシュンスイ

今回が最後の登場になってもいいようシデンとシュンスイについても書いておきます。
カジュアルな雰囲気を醸すふたりイモータルの存在は重苦しい展開が多い本シリーズにおいて清涼剤でした。

アンガーサッドネスVSシデンシュンスイは作品の中でも一際好きなシーンです。内向的な印象の強かったシデンが声を荒げ足技を繰り出した時はそのギャップに驚きました。しかし今作の彼を見ていると、見た目こそああですが元来そういった勇ましい気質を持っていた子だったのだとも思えて来ます。

普段は明るさ人懐っこさでシデンをリードするものの時に不安定なシュンスイと、普段は大人しいもののいざという時には他人の重さを背負える強さを持つシデンは魅力的なコンビだと感じます。ふたり揃ってポジティブに着地してくれて何よりです。

 

一旦の節目を迎えたHELIXですが、今後もシリーズが展開するのであれば追いかけられたらと思います。

今作は「ゼロとアガタの物語」を完結させるべく、組織同士のいざこざやヘリックスといった要素は一旦脇に置かれていた印象なので、続編では再度その辺りにスポットが当たると嬉しいです。